呼吸。
温い水滴が床に ぽたりと落ちて、自分が今泣いていた事に気付いた。 掌はこんなにも冷え切っているのに、まだ僕は呼吸ができて、意識があって なんてしぶとい生命体なんだと呆れた。 もう上手く笑う事なんて出来ないし、目を開けていても目の前は暗くて焦点すら 合わす事さえ出来ないのに、なんでまだ死なないんだろう。 どうして死なないんだろう。 これで、お腹が減ってご飯を食べ出したりしたら相当滑稽で。 僕は開けているのかさえ分からなかったこの瞳から、涙が流れていた事に 急に生を感じていた。 床にはグラスが転がり、そして多量の精神安定剤のカプセルが散乱している。 薄暗い部屋は無音で、自分のする浅い呼吸の音が漏れて頭に響いている。 こんな中途半端で、一体どこまで意気地なしなんだろうか。 僕の気付く間も無く、早くこの世の中から消えてしまいたかった。 どこまでも駄目で、これからも生きていく自身なんてないのに。 僕はふらつきながらも、床に転がっているグラスを拾い、冷蔵庫から適当な飲み物を注ぐ。 そして、そのまま 只じっとしている。 猫がこちらの様子を伺っている様で、また悲しくなる。 僕はその場に ごろんと横になって、注いだ飲み物がグラスからこぼれる事もかまわずに 口へ運んだ。 横たわった僕の目線には、散乱した精神安定剤がある。 それを、また1錠づつ口へ含んでは、飲み込む。 これで、これで、なんとか今度こそ。そんな事を思いながら、1錠、1錠。 すべてのカプセルを口一杯に含んで、グラスに残っていた残りでそれを流し込んだ。 猫はその場を動かずに、まだその場でこちらを見ている様だった。 僕はその視線をしばらく注視した後、ゆっくりと瞼を閉じた。 瞼を閉じてしばらくすると、横になっているのにぐらりと脳が揺らぐ様な感覚が訪れる。 酔う様な、気持ちが悪い様な、良い様な。 その感覚の中、ふと、僕は今の思いをパソコンに書き残そうと思ってデスクへ向かった。 そして今、これを書いている。 そろそろ、心地良くなってきた気がする。 今度こそ。今度こそ。 何も出来なくて、何も残せなくて、本当に不甲斐なくて、ほとほと自分にうんざりしているけど 僕がもしも、もうすぐこの世の中から消えていなくなれた時。 それは悲しい事では無くって、僕にとっては幸せな事なので、どうか僕を悲しまないでくれたら。 勝手な考えで、所詮甘えで、結局駄目な僕だったけれど。 僕の事を思ってくれた人に、ありがとう。 そして、最後まで迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。 僕は、今からもう1度眠りに落ちて、これが僕の意識を保つ最後の時だと思った。 冷え切った指は、この文章を打つ事さえも困難にさせている。 頭が空洞になったみたいに、今こうしているのに意識が無いみたいだった。 さようなら。 さようなら。 さようなら。 そして、ありがとう。