弐拾壱型。
Act.1 再会 その夜、きっと運命は笑っていた。のかもしれない。 まずいな。気付けば寄ってきたのに。そう思ったのは、部屋のトイレの紙が切れたからだった。 明日は休みだし、きっと一杯寝ちゃうだろうから起きたらまず、トイレしたい筈だね。 やっぱ、買いに行くしかないか。私は諦めて、溜め息を吐きつつも外へ出た。 この時間になると、近くのスーパーは間に合わないだろう。仕方が無いので、大学がある駅方面のコンビニに行く事にした。 コンビニに着いた私は驚いた。店の外から、あの昼間の美女が店内に居るのが見えたのだ。 そわそわしながらも店内へ入り、私は目当ての物を取りに迂回しながら様子を伺った。 彼女は誰かと待ち合わせでもしているのだろうか、雑誌の所で本を広げている。 私には気付いていないみたいだ。単純に、もう覚えて無いだけかもしれないが。 隠れる必要等無かったが、何となく昼間の事が引っかかり、私は避ける様にレジへ向かった。 それにしても、偶然にせよ一日に二度も出会うとは。大学から家が近いのだろうか。 私と時を同じくして、彼女がレジの方へ向かってきたのが見えた。 はっとした私は咄嗟に足を止めて、棚の後ろの方へと戻った。 「赤ラーク。」 彼女はレジにそう告げると、コートのポケットをまさぐった。煙草を吸うとは以外な感じだ。 「…、…。」 少し、様子がおかしい。彼女は反対側のポケットにも手を当てて、財布を探している様だった。 そうこうしているとレジが値段を言った。 「300円です。」 彼女はうろたえた表情をとった。私は、あぁ、と思って只見ていたが、昼間の事を思い出した。 …そうだ、彼女のお釣り…。 私は当然の様にレジへ向かって動きだした。そして、お金を出し品物を受け取った。 「…?ありがとうございました。」 彼女は驚いた様に私を見た。そして眉根を顰めて無言だった。 「これ、はい。…あ、今の貴方のお金なんです。お財布無かったんですよね?」 状況が把握出来ていない表情の彼女に、私は昼間の話しをした。彼女は私を覚えていた様だった。 「丁度良かった。受け取る理由無かったから返そうと思ってたんで。あ、あと残り。…あれ、小銭無い、ちょっと待って下さい。 …すみません、これお願いします。…どうも。」 直ぐにレジで会計を済ませると、私は残りの金額を彼女の方へ突き出した。 「はい、これ。お返しします。」 彼女はお釣りの残り、百二十円を私の掌で見つめて口を開いた。 「…。いらない。」 …え?いや、いらないって言われても困るんですけど? 「あ、…でもー、私のお金じゃないし…。」 彼女は昼間の様な虚ろな目で、私を見つめていた。近くで見ても美人で圧倒される。 「…知らない。織苑が勝手にした事だから。」 …え?…だから、えっとー…?困るんだって。そんな事言われても…。 「あー…、あ、じゃあ!その方に返して頂けませんか?お友達ですよね?」 私が困惑しながらも返したその言葉に、彼女は機嫌を悪くした様な顔をして答えた。 「…自分で渡して…。」 そう言い放つと、彼女は店から出て行った。 「………。は?」 しばらく私は呆然として、動けなかった。 何だあれ。何だ、何だ?私が何かしたか?何者だあれ。凄いよ?凄くない? 凄い、訳分からないんですけど?何か? 私の中で、段々と彼女に対しての怒りが込み上げてきた。掌は気付かないうちに握り締めていた、小銭の痕がついている。 だから、これを私にどうしろと?確かにでしゃばって、お節介だったかもしれないよ?だけど、これ位はしてくれてもいいんじゃない? 返してくれてもいいんじゃない?貴方、彼の友達でしょ?ホント、訳ワカンナイんですけど!? 怒り冷めやらぬ中、私は大股で外へ出た。真っ直ぐ部屋へ戻ったら、何かに八つ当たりしそうで帰る気にならなかった。 小銭は相変わらず私の手に握られたままだった。 気付けば、小さな駅前まで足を伸ばしていた。駅前は未だ明るく活気があった。 通りを行き交う人々は愉しげに、思い思いの週末を過ごしている様だった。 私は片手に小銭を握り、もう片方にはトイレットペーパーが入ったコンビニの袋をぶら下げて、あてもなく只歩いている。何、してんだろう? どうやら今日は、総合的に見て、いい日じゃ無かった様だ。今日何度目かの溜め息を吐いた。 気持ちが勢いを増して沈んでゆくのが分かった。哀しくなって部屋へ帰る事にし、私は来た道を又、戻っていった。