熱帯飼育。
完結済。
1.はじまり。 その高校は、静かな住宅が立ち並ぶ高台の丘にあった。 木立が日陰を作る石畳の細道を上がると、豊かな緑に囲まれた石造りの校舎が目に飛び込む。 簡素でありながらも、何処か伝統を感じさせる旧い造りのカソリック系・完全男子校である。 僕は、この黒栖高等学院に通う2年の、守山 湊。・・・いちを園芸部員だ。 とは言っても、僕がこの学校に入学する迄ずっと、ここにある温室は手入れもされず荒れ果てて、 とても温室と呼べる物では無かった。どうにか一年かけて、それなりにはしてみたものの…。 肝心の部員はというと、未だに僕一人の状態で…。 けれどめげずに、これからもっとこの温室に色んな花を殖やして、頑張って部員を増やそうと思っている訳で…。 まあ、僕の当面の目標はこの園芸部を、僕の卒業後も存続し続けていってもらえる様にしたいんだ。 あ。それはそうと、僕にはもう一つ頑張っている事がある。 それは、この蘭の花の事。 この蘭は、僕の家にも温室があったなら是非育ててみたかった花で、なんと花が咲く迄に一年以上もかかるという大変な物だ…。 けれども手間のかかる分咲いた時の美しさは、それはそれは言葉で言い表す事の出来ない程に、見事な姿で咲き誇る。 その姿がまるで沢山の蝶が舞う様な艶やかさから、和名で"胡蝶蘭"って名前が付いている。 昔、一度、僕の死んだじいちゃんに見せてもらった事がある。 とても綺麗で、今でもはっきりと思い出せる程素晴らしいかった…。 じいちゃんが大好きだったこの花は、僕にとっても、とても思い出のある花。 僕がこの温室で蘭を育て始めて、早、一年…。いよいよ、この蘭が咲きそうです。 …じいちゃん、咲いたら見せに行くね…! よーし!さて、じゃあ今日も花達においしい水をあげなくっちゃ!
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