熱帯飼育。
完結済。
7.バイオフェロモナー試薬品。 その頃、意識を無くした僕のまわりで起きた事といえば、こんな感じだった。 「湊っ?…あのー…。・・・ですからぁー・・・、で・・・」 やっとの事で、職員室から脱出を遂げた後藤君は、僕を探して理科室の前に来ていた。 室内は依然としてカーテンが閉じられたままで、中の様子を伺い知る事は不可能だったが、微かに人の話す様な声が ドアの隙間から漏れ聞こえていた。 「…あのー…?すみませんー…」 ためらいがちにもう一度声をかけた時だった。 中から只ならぬ雰囲気で、勢い良くガラスの様な物の割れる音が耳に飛び込んできた。 後藤君は、一瞬躊躇したものの直ぐに急いで理科室のドアを開けた。 「!?」 薄暗い室内を映す後藤君の瞳には、とても理解出来ない光景が飛び込んでいた。 床に割れた実験道具…白衣を乱した姿の日向先生…。そして先生に抱きかかえられ、気を失っている僕を…。 「湊っ!?…どうし…っう!!」 異変に気付き、僕の元へ走り寄ろうとした後藤君は、脇から突然はねつけられ不意打ちを食らった。 「!!?−っ何すん…!!」 目をやると、体当たりしてきたその正体は、眼鏡のずれを不敵に笑いながら直す松元さんだった。 「…関係者以外立ち入り禁止なんですが…。後藤昌己君?」 松元さんは穏やかにそう言うと、日向先生と後藤君の間に立ちはだかる様にして行く手を阻んだ。 「…アンタ、退けよ。俺は湊に用があるんだ……。そこの…日向先生に何されたか聞く用が!!」 最後の方は松元さんにではなく、日向先生に向かって怒鳴っていた。 するとその声を鬱陶しそうに松元さんは、顔をしかめてたしなめた。 「声を荒げるな。…まったく粗暴な人はこれだからいけません。後藤君、頭の悪い子は嫌いですよ?…お引きなさい…。 例え、日向様の崇高なる研究を説明したとしても、果たして理解は出来るでしょうか…?只、分かる事も御座いましょう… それはここから立ち去るという選択枝…」 己の世界に陶酔しきり、長々と説教を述べる松元さんのまだ続きそうな言葉を切ったのは、日向先生だった。 「退出しろ。」 その言葉に、うんうんと頷きながら松元さんも加えて言った。 「さぁ、言われた通りになさい早く出…」 またも松元さんの言葉は、日向先生によって切られた。 「君もだ…松元君。全員この部屋から出て行け。」 冷たく言い放つや、固まる松本さんとまだ話しが終わってないと抵抗する後藤君の二人を、容易く片手で追い出すと日向先生は、 ぴしゃりと鼻先でドアを閉めてしまった。 僕は救いの手を失ったというのに、まだ醒める事が出来ずに只ひたすらと、その身を日向先生に預け続ける事になってしまった…。
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