熱帯飼育。
完結済。
11.壊れた体。 PCには、さっきの実験の結果が出ていた。 静寂を取り戻した埃くさい部屋には彼一人が居た。画面を見た日向先生は思わず目を見張った。 PCには折り線グラフのようなものが、赤く上昇しきっていた。 "サンプル・守山 湊 × 交配・日向 総一朗 相性値 = 99.9% 投薬による相性の変化予測値 = ?% (エラー:予測不可。100%を超える数値は測定出来ません。)" どうやら、それは僕を元にして誰かとの相性を測るシステムの様だった。 さらに何か薬による結果も割り出すのだろうか?…しかしそれは表示されてはいなかった。 只、画面のグラフは血の様に赤く糸を作っていた。 先生はしばらく画面に見入ると、冷ややかな冷笑を浮べ眼鏡を直した。 「…面白い。なるほど…。」 そうして小さく呟くと、日向先生らしからぬ高笑いをした。 一方その時僕は、ふらつく体で人気の無くなった暗い廊下に出た所だった。 旧い校舎内は洩れる明かりも薄く、理科室からの笑い声が響き不気味だった。 やっぱり日向先生は何を考えてるのか理解できないや。 少し曲がった所に二人は居た。 後藤君は壁にぴったり張り付いていて、追い詰められている様に見えた。 「!!湊っ!」 「!」 二人は同時に僕に気付き、ある種、漂っていた緊張感が消えた様に思える。 「…後藤…君、君との勝負は次迄延期にという事にして差し上げます…。…守山君、ふんっ退き給え。」 何やら意味深な言葉を後藤君に吐き捨てると、僕の方をきつく睨み、そのまま理科室の方へと消えて行った。 …。後藤君の…知り合い?でも、初対面の僕の事も知ってる風だった…。…何だろう、引っかかる感じがする…。 考えても全然分からなかった。頭の中が絡まってしまったみたいで、ぎゅうと病んだ。 「湊!?大丈夫か!?」 後藤君の声に顰めた目を開けた。僕の事を覗き込んで、心配そうな顔をしている。 「あ…うん。ごめん、いっつも迷惑かけちゃって…。あは。どうしちゃったんだろうね僕…。」 「ど、どうしたって、何か変な事されたのか!?あいつに!」 真っ青な顔で尋ねる後藤君の質問が理解出来なかった。 「…えっ?な、何?誰に…?」 「日向だよ!あいつに何かされたのか!?」 後藤君の言葉が意外だった。僕…が何かされたの…? 「日向…先生?」 その言葉を口にしてはいけなかったのだろうか、口にした瞬間に、治まっていた眩暈に襲われ、胸が苦しい…! よろめいて、抱きかかえていた鉢が滑る感覚に僕は必死で堪えた。 ふっと、蕾から立ち上る香りが日向先生の香水に似てる…。動悸が急速に動きを加速していくのが分かった。 「…はぁっ!」 「湊っ!?どうした!?」 青い顔をしているだろうか…それとも虚ろな瞳をしている…?後藤君は倒れかけた僕の体を支えていた。 「…平気…っ、僕、もー…帰るね。後藤、君…ごめん。また、…ね。」 支えられていた腕を振り解くと、僕は精一杯笑って見せて逃げる様にその場から去った。 「!みっ、湊っ!?」 あっけにとられて、どうする事も出来ない後藤君を置き去りにしてしまった。ごめん…。 けど、僕はこれ以上誰かに迷惑をかけたくなかったんだ…。 今日の僕はおかしいんだ。きっと壊れているから…。こんな事思うなんて変だから…けれど、けれど僕は… どうしても 日向先生に会いたくなって…。 蘭の香りが僕を惑わせたんだ。きっと先生の言う通り。 だけれど、こんなの誰にも…言えない。だからなるべく遠くへ行かなくちゃいけない。 また、眩暈に囚われる前に…。 早く、蘭から離れなくては僕はこのまま気が触れてしまいそうで…。 僕は熱の帯びた体で、急いで温室へと向かった。
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