熱帯飼育。
完結済。
15.日向 総一朗の想い。(確定) 扉にもたれかかる様にして、後藤君は腰を抜かしていた。 何故ならそこには、今一番現れてはならない人物であった、日向先生が居たからだった。 「…守山…!迎えに来た…!!」 …いつもの日向先生らしからぬ高潮とした態度に、一同は別の驚きの空気に包まれた。 先生の手には妖しい煙を帯びた液体入りのフラスコが握られている。 …きっとアレでナニな薬に違いが無い事は、先生の尋常ならないテンションの高さで、容易に想像が出来た。 「…日向、様…!!」 松元さんは日向先生の姿を見たとたんに、落ち着きない様子でガタガタと体を震わせていた。 「…?…あぁ、松元君…。ご苦労だった。……解け。」 しゃぼん玉の様にいとも容易く、松元さんを支配していた緊張は壊れた。 先程迄の小悪魔的な態度をあっさりと変え、今ではすっかり、元の日向先生への従順な犬へと戻っていた。 「…はい!!」 「っぇえ!?松元サンっ!?」 せっせと紐を解く松元さんに待ったをかけたのは、扉の所でへたり込んでいた後藤君だった。 「コレ以上何すんだっ!止めろ!!何する気だっ!?」 松元さんの行動を阻止すべく、後藤君は僕の元へと走り込んで来た。 が、素早く紐を解いた松本さんの手によって、逆にその体を押さえ込まれてしまった。 「っ貴様!…邪魔をするな…っ!!」 必死で後藤君の事を押さえ込む松元さんに、後藤君は罵倒の言葉を吐いた。 「…裏切り者っ!この、キ●ガイ…野郎っ!!」 そんな二人を他所に、日向先生は僕を自分の胸元へと抱き起こすと、フラスコを口元に近づけた。 「!!よ、よせっ!!日向っ!!!!…み、湊ぉっ!!!!」 後藤君の叫びも空しく、日向先生はその動きを止める事は無かった。 「…さぁ、苦しかっただろう…今…解放してあげよう…。…その心の中まで…。」 口の中にはゆっくりと、酸性の刺激がある液体が流れ込む。 僕の乾いた喉は無抵抗にその物を受け入れた。 「…そう…、全部…飲み干しなさい…。いい子だ…。」 さっき迄の苦しさがまるで嘘の様に、体が落ち着きを取り戻していく感じが全身に伝わる。まるで体中の血が動きだした様に。 僕の呼吸が、見る見る穏やかになっていったのを確認すると、日向先生はそっと僕の体を床に寝かせた。 その光景を見ていた後藤君は、一瞬気の緩み力が抜けた松元さんの腕を振り解き、日向先生の元へ飛びかかった。 「…っ何飲ませたんだっ!?元に戻せよ!!治せっ!!湊を元に戻せ!!アンタ、出来るんだろっ!!」 白衣の胸元を掴まれたまま、日向先生はいつも通りの冷淡さを取り戻して言った。 「…完全品の抗体は無い…。」 「なっ!?な…な、にぃ…!っ?…何て事した、んだ!?…許さねぇ…!!っ!アンタの思い通りにはさせねぇ!!」 後藤君は、その怒りを爆発させて、日向先生を殴りかかろうと腕を振り上げて叫んだ。 「…っ!!日向様から離れろ!!」 寸での所を松元さんが止めた。 振り上げた後藤君の掌は、日向先生ではなく松本さんに命中し、音楽室に痛々しい破傷音を響かせた。 松本さんの眼鏡は又も、打たれた顔から弾かれて飛んだ。 もみ合う二人の衝突に、日向先生の眼鏡がずれていたが、それを動じもせずに指先で元に戻すと、静かに笑みを見せて言い放った。 「…もう、無理だ…。…何が何でも私の物になる…!!」 「!!っなんだとぉ…!?てめぇ…!!」 逆上しきった後藤君が、松元さんを跳ね飛ばし日向先生に拳を振り上げて立ち向かって行った、 その時だった。 思いもよらない光景が皆の瞳に映っていた。 「−!!?」 三人はそのまま固まった。 そこには日向先生をかばうかの様に、その身に抱き付いていた僕がいた。
Next,