熱帯飼育。
完結済。
6.湊Vs松元紀壱。 …あの人だ。きっとあの人の仕業に違いないんだ…!…だって見てたんだ。いつも温室をずっと見てたんだから…!! 息も絶え絶えに理科室の前に着いた。いつもカーテンは閉じられていて、実に妖しい雰囲気を漂わせている。 日向先生のやっている科学部は、ここで活動をしているのだろうが、その姿をきちんと見た人はいない。 ドアの前に立ち、呼吸を整えている僕には、一つの確信があった。 それは、この事は日向先生が仕組んだ事だろうという事。 中川先生から聞いた、松元って人がどんな人なのか判らないけど、でもきっと日向先生が関係してるに違いない。 僕は、もう一度大きく息を吸ってドアを叩いた。 …返事が無くても入る…!そう思っていた僕は意表を突かれた。 「どうぞ。」 …!返事がした。 けれどその声は、日向先生の物では無かった。じゃあ、これが松元さんだろうか? 一歩、踏み出した足が硬い床に音を響かせた。 「失礼します…。」 ドアを開けると、直ぐに目に入る位置にその人は居た。 見るからに目が悪そうな眼鏡をかけていて、彼の前にある机の上には、様々な実験に使う道具が音を立てていたが、 肝心の蘭の姿は何処にも見当たらなかった。 「やぁ、守山…湊君だね?待っていたよ、まぁ座って。私は科研部・部長の松元。まぁまぁ早く座って!」 笑顔を見せながら話かけてくる、早口な彼に促されるまま、僕は傍にあった椅子に強引に身を押し付けられた。 そんな彼の対応に動揺しながらも、僕は、はっと我に返り蘭の事を切り出した。 「あ、あの!僕、蘭…を…」 かちゃかちゃと棚から更に、実験用具を取り出していた彼の動きが止まり、理科室が一瞬静かになった。 しかし、また直ぐに音が聞こえだし、松元さんは振り返りながら、とても穏やかな口調でこう言った。 「…あー…、黙ってお借りしてすみませんでした…。私が行った時、御留守だったので今日は帰ってしまったのかと…。 あ、所で守山君、ハーブティーは好きですか?良い葉が在りましてね、さ、どうぞ。」 にっこりと笑って差し出された彼の手元には、ビーカーに注がれた謎の液体がコポコポと音を鳴らしていた。 受け取った液体は、黒く、時間の経ったコーヒーの様に濁っており、鼻を突くきつい硫黄の様な匂いがした。 「…あっあのっ!」 うろたえる僕の反応を気にも留めぬ様子で、松元さんの口元は柔らかに微笑んでいるが、その眼鏡の奥の表情は伺えない。 「…美味しいですよ。まぁ、飲んで…。」 これを飲まなければ話をしない様な、有無を言わせぬ雰囲気に場が包まれ、僕は意を決して口を付ける事にした。 「…い、いただきます…。」 ごくり。 一口飲んだ瞬間から、口の中に広がる何とも言えない苦さを感じて、僕はそのまま意識を無くしてしまった…。
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