熱帯飼育。
完結済。
10.僕の恩人。 なんとか開けた薄目には、暗く見慣れない部屋が映っていた。天井をみた感じそんなに広い所では無い様に思えた。 瞳を開けているのも辛い程体にだるさを感じていたが、無理にでもこの場所を確認しようと上半身を起こした、その時。 思うように力が入らずに、バランスを崩しかけてしまった僕をとっさに支えた人がいた。 体の幅程しかない机から、何かが落ちる音がする。 よろめいて揺れる視界に映ったのは、紛れも無くあの日向先生だった。 「…平気か?」 「…ひゅ日向…先生…?」 何か、ずっと奥の方…。引っかかる物を感じながら、けれどそれが何なのか分からず、気妙な鼓動だけが激しく動いた。 分かった事は、この場所が理科室なんであろう事と、この体のだるさが急に、日向先生を見たら落ち着いたと言う事…。 虚ろな顔をして見つめていたのだろうか、日向先生は僕から顔を反らして言った。 「…温室で倒れていたのが見えた、……。」 言葉少なくそう答えた先生は、少しいつもと違って見えた。どうやら、そういう事情で僕はここに居るらしい…。 先生が僕を見つけて・・・介抱してくれた?なんて意外なのだろう。 多くは語らないが勝手な解釈でそう思った。 「あ、ありがとうございま…」 眩暈がした。日向先生が僕の顔を掴み、目には強い光が当たる。くらくらして何も見えない。 「今日は何曜日だ?」 ぼやけてちかちかと揺れる光の向こうから、突然突拍子も無い質問が投げかけられた。 「…えっ・・・?金…曜ですけど…。」 答えたかと同時に、今度は口の中に指が差し込まれた。 「!!ぅっん!?」 ふっと、日向先生の手首から香水の様な匂いが立ち上った。僕の目はまだ、チカチカしてぼやけている。 「次の授業は?」 「んっ!こ…今日わ、もほ終わりまひた!」 口元からするりと指が抜かれた。一体何事だったのか、眩暈も忘れた感じでもう無くなっていた。 「…もう大丈夫だ。守山、帰れ。」 もうすっかり興味を失った様に、雑に鉢植えをこちらに渡した。 「何をしている。早く出て行け。」 …何故蘭がここに?すぐにそう思った。 「あの…?…これ…。」 鉢を手にした僕がこの疑問を口にすると、いかにも面倒くさそうに僕を睨みつけて言葉を吐いた。 「…。それの前で倒れていたから、…持ってきた迄だ。…多少…調べはした。」 そう言われ、よく見ると蘭の葉には小さな傷が付いていた。 僕が倒れていた原因と、欄に何かの関係があるとでも…?よくわからない事を思うんだなぁ…。 「…あ、お気遣いありがとうございました…。失礼します…。」 …でも…僕を助けてくれたんだもの。それ位の事、あの日向先生なら考え付いてもおかしくない。 何があったのか、自分では思いだせない限り、蘭に何かの原因があるのかもしれないなんて嫌だなぁ・・・。 何だか、怖さと哀しさが入り混じった切ない気持ちになり僕は、その場を後にした。僕にはそれが正しい事に思えた。
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