熱帯飼育。
完結済。
16.おわりに。 いきさつはこうだった。 僕は薬を飲まされたすぐ後に、既に意識を取り戻していた。 そうとは誰も気付かずに三人は何かをもめている様だった。 例の如く、意識はもうろうとしているものの、苦しさは無く妙にすっきりした感覚に僕は目を開けた。 最初に目に飛び込んできたのは、日向先生の白衣の後ろ姿だった。 そこには、"動物愛護"と言う文字が書かれてあり、可愛らしいパンダのアップリケが付いていた。 …あぁ・・・・・・なんて可愛いんだろう…。 「…ぱんだ…さん…っ!」 気が付いたら無我夢中で抱き付いていた。 一目惚れとしか言い様が無かった。 …運命だった。 その僕の行動は、思いもよらない結果をもたらした。 「!!み、湊っ…?」 「!!?−っ!?−っ!!」 「………。」 「…ぱん…だ…さ、ん。」 僕を取り巻く全ての空気が凍り付いていた。 只、僕だけが幸せの絶頂にいて、その事に気付いていなかった。 校舎は、いつもの静寂を取り戻していた。 「…み…湊…嘘だろ…?正気に戻れ…。…地球に…帰って来い…。」 「…速やかに日向様から、は、離れなさいっ!!この、が、害虫!!」 放心状態の後藤君とは対照的に、松元さんはその平手を僕に投げつけた。 僕は思わず目を閉じた。 ―――パチン! 目の覚める様な破傷音が鳴り響いた。 が僕は………い、痛くない…? 松元さんの掌は、日向先生に炸裂していた。 「!!」 松元さんは信じられない様子で、後退りをした。ぶるぶると震える手の平を押さえている。 「…ぱんだ…しゃ、ん…?…痛い……?」 心配そうに覗き込んだ僕の顔を見て、日向先生はにっこりと微笑んだ。 「…………。平気だ…まぁ、…いい。…さ、パンダさんと行こうね…。」 「…〜っ!うんっ!!」 その言葉に意識を取り戻したのは後藤君だった。 「湊っ!ま、待て!日向っ!!そうは…させないっ!!」 部屋から出て行こうとする、僕と日向先生の前に立ちはだかり両手を大きく広げて言った。 「…後藤…君…?僕…いけないの…?…僕…ぱんださんと一緒にいたいよう…後藤君、僕いけないの…?」 僕の問いかけに、どう答えていいものかと後藤君は戸惑った。 「…うっ!」 「…困らせるな…。さっさとお前等も家に帰れ。」 「…うっ!」 「後藤君、ばいばい。」 「…うっ!!」 そうして、僕達はその場を後にした。 「…な、納得いかねぇ………………。み…、湊ぉ……っ…!!」 長い事件が一応の終わりを迎え、音楽室に取り残された後藤君はすっかり脱力しきって、頭を掻きながら呟いた。 松元さんは僕達が居なくなった事にも気付かずに、一人何やらブツブツと呟いている。 「…おい。…松元サン!…もう終わったよ…。お話は終わり。俺達の出番はもう無し!」 「…えっ?…は…、日向…様は…?」 「…帰った…。湊と……、一緒に…。……あ〜っ!!!!…畜生っ!あんな薬さえなければ……っ!!!!…おいっ! 抗体は無いのかよ〜っ!?」 悔しそうに言った後藤君に対して、松元さんはやっと正気を取り戻した様に言った。 「…?…?何ですか、抗体……?そんな物はすぐ出来ますよ。だって解毒薬はもうあるって話したじゃないですか…。」 後藤君はその言葉にはっとして、まんまと日向先生にしてやられた事に気付いた。 "完全品の"抗体は無い…。…だけで、すぐ作れる…………? 「…!!クソっ!!やられた……っ!!…あ、諦めねぇぞ!っ絶対、ずぇっったいにっ!!っ薬作らせてやる!!待ちやがれぇっ日向ぁあああ!!」 かくして、戦いはまだこれからが本番…。 だけれど今回のお話はここ迄でひとまず終わり…。 続きはまた…胡蝶蘭が咲く頃に…。 「ぱんださん、ぱんださんっ!見て下さいっ!…………ねっ?綺麗でしょう!!」 は…早過ぎかなぁ…。 おわり。
End,