熱帯飼育。
完結済。
8.放課後の悲劇。 「…何だよ、あれ!?」 独り言の様に憤り地味た後藤君の声が、もう人影少なくなった廊下に響き渡った。 「煩い。」 流石の松元さんも言葉少なく、後藤君の事を制止した。顔色は青ざめ、しきりに爪を弾いては噛んでいる。 そんな事はお構い無しに、後藤君の不満の矛先は閉め出された室内へから松元さんへと向けられた。 「おい!何か知ってんだろう、アンタ!?何なんだよあれは!」 その問いかけも耳に入っていないかの様に、背中を向けたまま松本さんは爪を噛んでいる。 松元さんの態度に納得のいかない後藤君は強引に、その忙しなく動き続けている腕を掴んで怒鳴った。 「黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!!?」 静かな廊下に声が響いた、その時だった。 不意に掴まれた腕は反射的に後藤君の手を払おうとして、松本さん自身の眼鏡にぶつかった。 空しく床へと落ちた眼鏡は、軽い音を立てて数回跳ねては、後藤君の足元へ転がった。すぐさま廊下には静寂が戻る。 「…!」 驚きのあまり声が出なかった。目の前には、見目麗しい顔を苦痛に歪めた美青年がたたずんでいた。 あの厚い眼鏡の奥に、こんなにも美しい顔があった事などは、きっと誰も想像もしなかった。 「見ましたね…。」 静寂が破られた。それを行ったのは松元さんだった。 「いやっ、…まだ見てない…!」 後藤君はとっさに背を向けた。そして察知した。 …見ては…知ってはならないものを知ってしまったと。 「…ふっ。」 急いで答えた後藤君に、松元さんは鼻で笑い呟いた。 「…殺らねば…。」 廊下に落ちた眼鏡を手探りで捜しながら、じわりじわりと後藤君に近寄って来る様は、何やら悪意の塊にも見え、 後藤君は言いようも無い恐怖に駆られた。 足元迄来た時、緊張は頂点に達した。 …………夢の奥の方で、誰かの叫ぶ声が聞こえた気がした。 けれど、僕は相変わらず深い眠りの底に落ちたまま、何が起こっているのかも知らずに、只々眠り続けていた。
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